
ずいぶん前のことになりますが、
いまも印象に残っている鍼灸の事例を、
いくつかご紹介したいと思います。
私が施術を始めた頃から、
鍼灸という方法が持つ深い力には、
何度も驚かされてきました。
そしてその後、
キネシオロジー(筋肉反射テスト)を取り入れるようになり、
「身体そのものが教えてくれる場所」を見つけられるようになってから、
施術の精度がぐんと深まっていったのです。
たとえば、膝が痛いとお越しになった方。
「ここを刺激しましょう」と身体が教えてくれる場所は、
必ずしも膝そのものではありません。
「えっ、ここなんですか?」と、
自分でも意外な部位が浮かび上がってくるのです。
そしてその場所をていねいに整えていくと、
確かに痛みが軽くなっていく。
頭で考えた施術プランより、
身体が「ここですよ」と教えてくれる場所のほうが、
ずっと的確なことが多いのです。
身体の筋肉は、まるで地層のように層を重ねて出来ています。
表面の張りやコリだけではなく、
その奥のほうで起きている滞りが、
慢性的な症状を生んでいることがあります。
そうした深い層に届く繊細さが、
鍼灸という方法の大きな魅力です。
たとえば、しびれや坐骨神経痛。
私の身近な家族にも、
長く悩んでいた坐骨神経痛が、
たった一か所への施術で、
その場でウソのようにラクになったことがありました。
「あれは何だったんだろう」と、
本人と笑ってしまうほどの変化でした。
しびれや神経痛は、
本人にしか分からないつらさがあります。
「夜眠れない」
「足が自分のものでないような感じがする」
「動けるか分からなくて出かけるのが怖い」
そういったお声を、これまでにもたくさん伺ってきました。
ご本人の感覚に静かに耳を傾けながら、
その方の身体に必要な場所を、
キネシオロジーで一つひとつ確認していきます。
決まったマニュアル通りに刺激することはありません。
身体のほうから「ここに来てほしい」とサインが出てくる場所を、
ていねいに整えていくのです。
もうひとつ、いまも忘れられない事例があります。
これは私がまだ往診をしていた頃、
キネシオロジーを学ぶ前の、
鍼灸そのものだけで施術をしていた時代のお話です。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された方のお宅へ、
定期的に伺っていたことがありました。
ハイハイで生活できていた状態から、
わずか3か月で寝たきりへと進行されてしまっていた、
そんなタイミングでお会いした方でした。
ご本人もご家族も、深い不安の中にいらっしゃいました。
そこから定期的に鍼灸を続けていったところ、
進行のスピードが大きくゆるみ、状態が落ち着いていったのです。
もちろん、ALSのような難病に対して、
すべての方に同じ変化が起きると言い切れるものではありません。
それでも、難病と向き合うご家族のお役に立てた――この経験は、
いまも私にとって大きな自信になっています。
鍼灸という方法には、それだけ深く身体に届く力があるのだ、と。
現在のえんどう治療院では往診はお受けしておらず、
ご来院いただける方を対象とした施術のみとなっています。
それでも、「難病の方にもお役に立てた」あの時の経験が自信となり、
日々の施術に活かしています。
当時はまだ刺す鍼を使っていましたが、
現在のえんどう治療院では、刺さない「てい鍼」を中心に施術しています。
優しくツボを押さえたりさすったりするだけで、
身体に必要な刺激を届けていく方法です。
刺激は穏やかでも、
キネシオロジーで「いまその方に必要な場所」を一つひとつ見つけて整えていくという、
施術の柱は変わっていません。
鍼が苦手な方、感覚過敏で刺激に弱い方、
お子さんやご年配の方にも、安心して受けていただけます。
しびれや坐骨神経痛、神経系の不調など、
「もうこの症状とは付き合っていくしかないのかな」
と感じておられる方もいらっしゃるかもしれません。
そんなときこそ、身体に問いかけながら、
ていねいに整えていく時間を持ってみてください。
意外な場所から、思いがけない変化が始まることがあるのです。
